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─22─ 迫りくるもの

Penulis: 内藤晴人
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-30 00:37:36

「とりあえず、意識は戻られました。けれど……」

 そして、幾度目かのシグマの店での会議である。

 シモーネは静かにそう切り出したのだが、表情は暗い。

 飲み物を手際よく配りながら、シグマが問い返す。

「けれど、どうしたんだ? 目は覚めたんだろ?」

 しかし、その言葉にシモーネは目を伏せ、首を左右に振る。

 首をかしげるシグマに向かい、シモーネは絞り出すように続けた。

「寝台に横たわったまま、虚ろな眼差しを天井に向けられるのみで……。何も話すこともなく、もちろん食べ物を口にすることもなく……」

 やはりゲッセン伯のところで受けた苛烈な責苦で、その心は完全に壊れてしまったのかもしれない。

 予想通りの展開に、室内には重苦しい空気が流れる。

 さらに追い打ちをかけるように、シモーネはこう続けた。

「悪いことに、屋敷の周囲に見慣れぬ人間がうろつくようになりました。……敵は、手当たり次第に心当たりの場所を探っているのでしょう」

 その言葉に、ユノーはうなずいて賛同を示した。

 というのも、祖母の家の周囲にも明らかに地元の人間ではない男を見かけたからだ。

 遅かれ早かれ、この店での会議も危険なものとなるかもしれない。

 いや、その前にシエルの安全をなんとしても確保する必要がある。

 そんな思考に沈んでいたユノーを、シグマの一言が現実に引き戻した。

「そう言えば、斥候隊長はどうしたんだ?」

 そう、今日はまだペドロが来ていない。

 同じく姿が見えないロンドベルトからは、何やら条約締結の件で慌ただしくなったため当分出られないとの連絡を受けている。

 あの几帳面なペドロが連絡もなく欠席するはずがない。

 何か面倒なことに巻き込まれたのか、あるいは……。

 嫌な想像が一瞬ユノーの脳裏をよぎったが、無理矢理にそれを振り落とす。

 何よりユノーよりもはるかに手練で注意深いペドロが、そう簡単に危機に陥るはずもない。

「もうしばらく待ちますか? それとも……」

 言いさして、ユノーはシモーネに視線を送る。

 それを受けてシモーネは一つうなずくと、何やら紙に書き付け始めた。

 どこに敵の目が光っているかわからない今、重要な事柄を言葉に出して外部にもれるのを防ぐためだろう。

 シモーネの手元を注視するユノーとシグマ。

 女性らしい繊細な文字は、こんな文章を書き出していた。

──公爵閣下は、アルト
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    「とりあえず、意識は戻られました。けれど……」 そして、幾度目かのシグマの店での会議である。 シモーネは静かにそう切り出したのだが、表情は暗い。 飲み物を手際よく配りながら、シグマが問い返す。「けれど、どうしたんだ? 目は覚めたんだろ?」 しかし、その言葉にシモーネは目を伏せ、首を左右に振る。 首をかしげるシグマに向かい、シモーネは絞り出すように続けた。「寝台に横たわったまま、虚ろな眼差しを天井に向けられるのみで……。何も話すこともなく、もちろん食べ物を口にすることもなく……」 やはりゲッセン伯のところで受けた苛烈な責苦で、その心は完全に壊れてしまったのかもしれない。 予想通りの展開に、室内には重苦しい空気が流れる。 さらに追い打ちをかけるように、シモーネはこう続けた。「悪いことに、屋敷の周囲に見慣れぬ人間がうろつくようになりました。……敵は、手当たり次第に心当たりの場所を探っているのでしょう」 その言葉に、ユノーはうなずいて賛同を示した。 というのも、祖母の家の周囲にも明らかに地元の人間ではない男を見かけたからだ。 遅かれ早かれ、この店での会議も危険なものとなるかもしれない。 いや、その前にシエルの安全をなんとしても確保する必要がある。 そんな思考に沈んでいたユノーを、シグマの一言が現実に引き戻した。「そう言えば、斥候隊長はどうしたんだ?」 そう、今日はまだペドロが来ていない。 同じく姿が見えないロンドベルトからは、何やら条約締結の件で慌ただしくなったため当分出られないとの連絡を受けている。 あの几帳面なペドロが連絡もなく欠席するはずがない。 何か面倒なことに巻き込まれたのか、あるいは……。 嫌な想像が一瞬ユノーの脳裏をよぎったが、無理矢理にそれを振り落とす。 何よりユノーよりもはるかに手練で注意深いペドロが、そう簡単に危機に陥るはずもない。「もうしばらく待ちますか? それとも……」 言いさして、ユノーはシモーネに視線を送る。 それを受けてシモーネは一つうなずくと、何やら紙に書き付け始めた。 どこに敵の目が光っているかわからない今、重要な事柄を言葉に出して外部にもれるのを防ぐためだろう。 シモーネの手元を注視するユノーとシグマ。 女性らしい繊細な文字は、こんな文章を書き出していた。──公爵閣下は、アルト

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  • 名も無き星たちは今日も輝く   ─17─ 地下水路

    「どこへ行った? 逃がすな!」 「まだ遠くへは行っていないはずだ! 探せ!」 水路の壁や天井に反響して、追手の声が四方八方から聞こえてくる。 不安げなユノーとシグマをよそに、ロンドベルトはまったく表情を動かすことなく闇の中を走り続ける。 「将軍さん、どこへ行くつもりなんだ?」 シグマの言うとおり、ロンドベルトは無茶苦茶に走っているように思えた。 だが、それは考えあってのことだった。 「中央広場に戻るのは危険と判断しました。地上にはこちらの追手の数倍の部隊が展開しているでしょう」 そんな中に飛び込んでいっては、多勢に無勢で勝ち目はないのは明らかだ。 だとすると、残された方法は……。 「追手をまきながら進んでいるということは、わかりました。ですが……」 シエルを背負い、かつ甲冑をまとっているユノーの息は、早くも上がりかけている。 果たして自分の体力はどこまで持つのか不安げなユノーを安心させるように、ロンドベルトはわずかに振り返りながら言った。 「安心してください。目標は定めていますので」 私を信じてください。 そう告げるとロンドベルトはおもむろに剣を一閃させ、角から現れた二人の追手をあっという間に切り捨てた。 この闇の中でも、彼の瞳は確実にすべてをとらえているのだろう。 しかしそれにしても、ここまで地下水道が皇都の地下を網の目のように張り巡らされているとは知らなかった。 まだまだ自分は知らないことが多すぎる。 ユノーはなんとも言えない思いにとらわれて、思わず唇をかんだ。 そんなユノーを現実に引き戻したのは、ロンドベルトの何気ない問いかけだった。 「シグマ殿、後ろから来る気配はありますか?」 「聞かなくても将軍さんには見えてるんだろ?」 にやりと笑いながら答えるシグマに、ロンドベルトはいつもの斜に構えた笑みで返し、やや歩調を緩めた。 「どうやら敵は完全に我々を見失ってくれたようですね」 どうやら危機は脱したようである。 ユノーはわずかにずり落ちていたシエルを背負い直し、あわててその後を追う。 果たしてロンドベルトがどこを目指しているのか、まだ見当がつかなかった。 そしてふと、ある疑問が浮かび上がる。 「……ペドロさんは、大丈夫でしょうか」 その疑問が、不意に口をついて出

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